匂いを計測するとは?
匂いを嗅いで脳で認識する この行動を、機械がやるにはどうすれば良いでしょう?
大きく3つのユニットから構成されます。
①匂い分子をくっつける役割の膜、感応膜とも呼びます。
②そしてこの膜についたものを電気信号として取り出すトランスデューサー(情報変換器)が必要です。
③変換された電気信号を解析する解析装置
本研究室では①②の部分を研究しているわけです。
という事で、少しだけ詳しく見ていきたいと思います。
ニオイに代表される複数の化学成分より成る混合気体は、我々の生活空間における重要な情報源となります。どんな種類の成分が、どのような濃度で混合気体を構成するかによって、モノの状態や環境の状況を判断することができます。工学的な視点から、生活・環境・安全・福祉などの様々な分野で生活の質を向上させ豊かにする技術の一端としてニオイセンシングが注目されています。
センサのシステムは、測定対象のニオイとのインターフェースの部分に感応膜、感応膜でニオイ分子を補足した情報をデータ処理できる情報(主に電気情報)に変換するトランスデューサ、そして情報処理して分かり 易く表示して情報を伝える表示器より構成されます。ネット環境につないで情報をやり取りすることを容易にするため、PCが表示器をになう場合が増えてきました。
ニオイセンサの感応膜は測定対象ガスである混合気体から選択的にある成分分子だけを捕捉する能力を有するもの、例えばアルコールセンサのようにエタノールだけに応答する感応膜が有効な場合があります。ある成分だけに注目してセンシングする場合にあたります。
一方、ニオイのように不特定多数の化学成分より成る混合気体を測定対象とする場合、様々な分子に対応できる必要があります。感応膜にはある程度のガス選択性はあるもの、例えばアルコール類(OH基を有する分子)に親和性が強いもので緩い選択性を有するもの、を用いれば広く分子に対応することが出来ます。この緩い選択性を有する感応膜を様々な分子グループごとに用意しておけば、不特定多数のガス成分に対応できる感応膜群が構成されることになります。
さてその感応膜についたものを電気信号として取り出す②トランスデューサー(情報変換器)について次は見ていきたいと思います。この研究室では、水晶振動子というものをトランスデューサとして使っています。どのような仕組みで電気信号として取り出しているのでしょうか?説明していきたいと思います。
水晶振動子を情報変換器に用いた分子センサ
感応膜で起こっている現象(におい分子を捕捉)を検出器で観測すればよいわけです。
杉本研では、水晶振動子を情報変換器として主に利用しています。これはピエゾ素子ともよばれ、水晶板の両側に交流電圧を印加すると圧電効果により、ずり振動を起こすことが知られています。この振動特性に、振動体(すなわち水晶)の質量や粘弾性などが影響しています。もしも、この水晶表面にガス分子が吸着して、質量や粘弾性などの振動特性に関するパラメータの変化量が計量できればよいわけです。しかし、水晶だけでこのような変化を起こすことは困難です。そこで、水晶と一体として振動する薄い感応膜を水晶板の表面にコーティングし、この感応膜で起こるガス吸着現象を振動特性の変化量として検出することでセンサを構成します。この感応膜にはたくさんのガス分子を吸着して質量や粘弾性など振動特性が顕著に変化することが期待されています。もちろん、まず、感応膜をコーティングすることで水晶が振動できなくなっては困りますので、振動エネルギーをなるたけ吸収しないものが求められます。このような感応膜としての条件に適したモノをコートする技術は水晶振動子だけに限らず、様々なタイプの情報変換器にとって大きな開発目標に
なっています。
水晶結晶の円板の両側に電極を形成し、その間に交流電圧を印加すると、ある振動数で、共振が起こる。このときの振動数を共振振動数(or 共振周波数)とよびます。この共振が起こる振動数は、水晶結晶のカット面、厚み、水晶の弾性率などで決まります。下のようなズリ振動が生じます。
周波数測定は高精度に計測が可能(0.1Hzの精度での測定も可能)。よって、共振周波数だけに着目して、この変化量を求めることで質量変化(すなわち、ガス分子の吸脱着)を高精度に知ることができます。この共振周波数を計測する自励発振式の測定器は汎用的に用いられています。下のソーブレー式を基に、共振周波数の変化量より質量変化量を求めることができます。しかし、共振周波数は、質量の他に膜の硬さや圧力からの影響をうけて変化し得る。よって、膜の硬さや圧力の影響が無視できるときは、質量変化により共振周波数が変化したものと判断でき、ソーブレー式が適応できます。一方、ガス吸着・吸収により、膜の硬度が変化する可能性のある有機系薄膜では、硬度の変化を考慮して解析を進める必要があります。
杉本研で、よく用いている F0 = 9 MHz の水晶振動子の場合は、以下のようになっています。
水晶振動子の振動特性
水晶振動子の振動特性はインピーダンス分析(もしくはアドミッタンス分析)とよばれる交流測定法により詳細に解析することができます。水晶振動子の振動は、コンデンサー・抵抗・コイルなどの電気素子を組み合わせた電気的等価回路で表すことができます。これらの電気素子は、振動体を記述するコンプライアンス、エネルギー損失、質量などの特徴量に置き換えることができます。すなわち、回路定数を測定して、振動特性を分析することが可能で、インピーダンスアナライザを当研究室では利用しています。
周波数を走引することで共振点(周波数)がどのように分布しているかを見つけ出し、回路定数も求めることができます。この分析で、ガス分子の吸着-脱離による質量変化、感応膜の粘弾性変化などを知ることができます。においセンサ機能の他、感応膜がガス分子との相互作用で、どのような影響を受けたかも知ることができます。膜の特徴を知ることも可能になります。