基本的な考え

 ヒトの脳はハードウェアとしての神経回路のシステムとソフトウェアとしての言語のシステムからなりたっています。神経回路はヒト以外の種にも共通な生物的システムであり、一方、言語はヒトの脳が数百万年に亘る社会的交流を通じて生みだしたところの社会的記号システムです。
 ヒトの脳はこのように生物・記号的な複合システムであり、常に言語システムと共に捉えることが必要です。ヒトの脳をモデル化し創るには、神経回路に依拠するハードウェア中心の方法と言語に依拠するソフトウェア中心の方法とが考えられますが、両者の統合が必要です。ハードウェア中心の方法の基礎が計算神経科学だとすれば、ソフトウェア中心の方法の基礎は言語学に置かれるべきです。
 ヒトを他の種から決定的に分かつヒトの知は言語に依っています。従って、ヒトの脳のシステムを総体として模擬しようとするのであれば、脳型の神経回路ハードウェア上に、ソフトウェアとしての言語システムを実装することを目指さねばなりません。すなわち、脳を創るとは、脳と同じ原理で働き、言語機能を含む脳の諸機能をもち、構造的に脳と同型のハードウェアを実現することです。
 日常言語コンピューティングはこのような観点に立って、ヒトの脳の言語機能を実現するために、ヒトの言語システムの計算論的モデルを構築して、計算機上に実装し、言語に基くヒトの脳型コンピューティングシステムを開発することを目的とします。言語システムを扱う基礎となる言語学としては、選択体系機能言語学を用います。選択体系機能言語学は、言語をシステムとして捉え、コンテクストを含む言語の包括的理論モデルを与え、意味を扱うためのもっとも強力な言語学です。
 ヒトの脳が生みだした言語システムは、一方、脳の外で日々観察でき、その分析を通じて言語学は言語システムを解明し、そのモデルを作ってきました。言語学が明らかにする言語システムの構造と機能は必ず脳のハードウェアの構造とその機能の仕組みを反映しているはずです。当研究チームの方法はこのような考えに基くトップダウン的なものです。脳の言語機能に関しては、特にトップダウン的方法は大きな意義をもち、神経科学のボトムアップ的方法を補完し、解明すべき言語機能の目標を与えることができるでしょう。
 脳の言語機能としては3つのものが考えられます。言語処理、言語利用、言語学習です。初めの2つの機能は言語システムの存在を前提としています。一方、言語学習は幼児による言語システムの獲得を意味します。成人の脳の高次機能を実現しようとする我々の研究では扱いません。
 言語処理とは脳内に埋め込まれている言語システムに基づいた言語(テクスト)理解と生成を意味します。これを実現するためには、言語システムの計算論的モデルと理解・生成の計算アルゴリズムが必要です。言語利用とは、言語を通じての認識や経験、言語による思考や学習を意味します。この機能のモデル化も脳型コンピューティングの重要な部分となるでしょう。

目標

上記、基本的な考えに基づき、ヒトが言葉で思考・推論するような処理(我々はこれを「情報処理」ではなく「意味処理」と呼ぶ)を実現することを目標とします。 意味処理実現のために日常言語コンピューティングでは、以下に示す4つの要素技術の開発を行い、それらに基づく3つの応用システムの開発を行うことを目標とします。

要素技術

日常言語インタフェース(クライアント秘書)

クライアントごとに個人化されるインタフェース。言語プロトコルの配信データを作成し、他のコミュニケーション対象と通信します。

セミオティックベース構築

システミック理論により提供される言語モデルであり、ヒトの言語システムに相当する言語資源ベースとして構築。 テクスト理解・生成のための言語資源です。

言語アプリケーションプログラミングインタフェース

様々な規格(通信規格、オントロジー、など)と言語を結ぶインタフェース。

言語プロトコル通信の開発

コンピュータが使う言葉を自然言語にする ⇒ 機械知性からヒトの知性へ 自然言語を様々な通信機器間の通信プロトコルにする研究

応用技術

言語アプリケーションソフトウェア

アプリケーションの操作を言語で記述します。 LAPIを通じ言語プロトコルで配信されるデータによって駆動されます。

スマートヘルプシステム

既存のオンラインヘルプ内に記述されているテクストを言語で記述された知識として利用する知的なヘルプシステム。

言語プログラミング

自然言語でプログラミングができます。

システム構成

日常言語コンピューティングシステムの全体構成図を以下に示します。

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日常言語コンピューティングシステムの全体構成

参考文献


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