理研におけるプロジェクト:評価

人工知能学会

近未来チャレンジセッション

人工知能学会全国大会では、近未来チャレンジ(Challenge for Realizing Early Profits)と称して、5年以内で社会貢献できる現実路線の人工知能技術を募集し、優れたものを学会としてサポートすることにより、強力なAI技術を世の中に送り出すことを目的としたコンペティション形式のセッションを開催しています。コンペティションの形式は、毎年、応募者に自らのアイディアを提案してもらい、その評価を聴衆からのアンケート、および、大会担当者らの評価に基づき、上位5つの課題のチャレンジャーに対して、次年度の全国大会でのワークショップを開催する権利を与えるというものです。

第15回人工知能学会「近未来チャレンジセッション」

本研究は、2001年5月22日(火)〜25日(金)に松江 島根県民会館にて開催された第15回人工知能学会全国大会において、「近未来チャレンジ」セッションにニュー・チャレンジとして「日常言語コンピューティング」というテーマで応募しました。当大会において、当該セッションにおいては、「ニュー・チャレンジ」7件、そして2000年度全国大会(第14回人工知能学会全国大会)にて残ったチャレンジの「サバイバル」 4セッションが行なわれ、コンペティションが行われました。

第15回人工知能学会全国大会「近未来チャレンジ」における結果は、以下のようでした。

•サバイバル・オブ・チャレンジ

チャレンジャーテーマ
藤本 和則 (FRP) 他ネット情報を使った意思決定支援
矢入 郁子(通信総合研究所) 他高齢者・障害者の自立的移動を支援するRobotic Communication Terminals

•ニュー・チャレンジ

チャレンジャーテーマ
石田 亨(京都大学)インタラクション設計言語Qの提案
松原 仁(公立はこだて未来大学) 他大規模災害救助シミュレータを対象としたリアルタイム実況の自動生成
岩爪 道昭(理化学研究所脳科学総合研究センター) 他日常言語コンピューティング

前年度から勝ち残っていた4件のチャレンジャーのうち、2件のみが生き残り、新たに3件のニュー・チャレンジが上位5件の内に入りました。 当研究チームは、3件のニュー・チャレンジのうちの一つとして選ばれ、次年度の人工知能学会全国大会にてワークショップを開催する権利が与えられました。

評価結果において5位が、本研究テーマである「日常言語コンピューティング(LOS:言語OS)」であり、聴衆によるアンケートQ1「5年以内にできるか?」という質問に対しては、消極的な回答が多かったが、他のアンケートQ2「社会貢献になるか?」、アンケートQ3「AIに貢献するか?」という質問に対しては、他のテーマには見られないような高得点を有し、AI研究者たちからの関心の高さが伺い知れます。

第16回人工知能学会全国大会「近未来チャレンジセッション」

第16回人工知能学会全国大会は、2002年5月29日(水)〜31日(金)に国立情報学研究所にて開催されました。本研究チームは、5月31日(金)午前中に、「近未来:LOS(Language Operating System)というセッションを開催し、9件の口頭発表(当研究チームからの発表が4件、外部から「近未来:LOS」セッションへの投稿が5件と、当研究セッションへの外部からの関心の高さがわかる)、および、口頭発表終了後、パネルディスカッションを開催しました。

この他に、前日の5月30日(木)における「デジタルポスタ1」セッションにて、以下の発表がなされ、言葉でアプリケーションソフトウェアを操作するデモを紹介しました。

昨年度のセッションにて、日常言語コンピューティングの構想を紹介したのに対して、本年度は、日常言語コンピューティングの「言葉で情報処理を行う」という基本的なコンセプトを理解してもらうために、アプリケーションソフトウェア(Javaワードプロセッサ)を対話的に操作するデモシステムを作成し、デジタルポスタセッションにて紹介しました。これを通じて、日常言語コンピューティングの概要について説明する機会をもつことができました。

第16回人工知能学会全国大会「近未来チャレンジ」における結果は、以下のようでした。

•サバイバル・オブ・チャレンジ

チャレンジャーテーマ
藤本 和則(FRP)他ネット情報を使った意思決定支援
矢入(江口)郁子(通信総合研究所)他高齢者・障害者の自立的移動を支援するRobotic Communication Terminals
石田 亨(京都大学)、松原 仁(公立はこだて未来大学)他危機管理シミュレーションとその分析
岩爪 道昭(理化学研究所)他日常言語コンピューティング

•ニュー・チャレンジ

チャレンジャーテーマ
片寄 晴弘(関西学院大, 科技団さきがけ研究), 平田 圭二(NTT), 他事例に基づくデザイン支援と評価基盤の構築

サバイバル・オブ・チャレンジにおいて、4件のチャレンジャーが勝ち残ったが、これは、前年度から勝ち残っていた5件のうち、2つのセッション(「インタラクション設計言語Qの提案」、「大規模災害救助シミュレータを対象としたリアルタイム実況の自動生成」)が共同研究となり、ひとつのセッションになったため、実質、昨年度勝ち残ったチャレンジャーはすべて今年度も勝ち残ったことになりました。また、ニュー・チャレンジ1件が採択されました。

当研究テーマLOSは、生き残れる上位5件のうち、最後の5位で勝ち残ることができました。上位5位のうち5番目という順位ではあるが、勝ち残りをした他4件のうち、3件とはほぼ同じ得点を得ており、勝ち残れなかったテーマの得点とは大きく離れていました。

第17回人工知能学会「近未来チャレンジセッション」

第17回人工知能学会全国大会は、2003年6月23日(月)〜27日(金)に新潟 朱鷺メッセにて開催されました。本研究チームは、6月27日(金)午前中に、「近未来チャレンジ:日常言語コンピューティング」というセッションを開催し、6件の口頭発表、および、口頭発表終了後、座長による総括を行うセッションを開催しました。

当研究チームからの発表が3件、外部からの発表が3件の計6件の発表が行われました。それぞれの発表内容の日常言語コンピューティングの枠組みへの関連を図7に示します。

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【図7:各研究内容の日常言語コンピューティングの枠組みへの関係(1)】

図7は、日常言語コンピューティングの基本的な3つの原理である、「言語化」、「個人化」、「人間化」に対して、当セッションにて発表がなされた研究内容がどのように位置づけられるのかについて示しています。 (伊藤et al.)や(山口 et al.)による研究内容は、3つの原理のひとつである「言語化」について近いものが発表されました。(伊藤 et al)は、状況に応じて様々な意味を作り出す言語体系資源の構築における発表内容であり、(山口 el al)は人が利用するレベルのオントロジーを言葉で表現する考察を行った発表内容であり、双方の発表内容は、言語をいかにコンピューティングのための資源として利用するかについてのものでした。 また、「言語化」とは少し離れるが、(岩爪 et al)および(池ヶ谷 et al)らの発表内容は、(岩爪 et al)においては、マッチングの手法に言語を媒介にして柔軟なマッチングをおこなう手法を提案し、(池ヶ谷 et al)においては、自然言語の意味を統一的に表現できる形式を提案し、文脈の処理を柔軟に行う手法を提案しました。双方の発表内容は、言語を情報処理のなかにおいて柔軟に利用するための表現形式について考察をおこなったものとみなすことができます。また、(山田 et al)では、携帯端末の操作を簡単な言葉を話すような感覚で操作できる手法を提案しており、万人が使っている言葉を機器操作のためのインタフェースとして取り入れる考えを提案しました。これは、(岩下 et al.)による研究発表と対極をなすものとして位置づけられ、(岩下 et al.)では、言葉の使用の仕方から機器操作における個人の習熟度を判別し、それに基づきテーラーメイドの情報提示をおこなう手法を提案しました。これは、日常言語コンピューティングのひとつの原理である「個人化」を実現する手法として提案されています。また、本来、発表予定であった(高田 et al.)においては、分散環境における通信を自然言語インタフェースを用いて、言葉で通信をおこなう手法を提案したものが報告される予定であったが、残念なことに発表がキャンセルになってしまいました。この研究内容は、今回、発表されませんでしたが、日常言語コンピューティングの基礎的な技術のひとつである、言語プロトコル(―コンピュータの通信規格を自然言語にする―)研究(小林 et al.)と極めて近い研究であり、通信における規約フリー、およびエージェント間通信のプロトコルを自然言語にする通信の言語化について多くの研究者たちが興味をもっていることが伺い知れます。

第17回人工知能学会全国大会「近未来チャレンジ」における結果は、以下のようでした。

•サバイバル・オブ・チャレンジ

矢入(江口)郁子(通信総合研究所)他高齢者・障害者の自立的移動を支援する Robotic Communication Terminals
石田 亨(京都大学)、松原 仁(公立はこだて未来大学)他危機管理シミュレーションとその分析
岩爪 道昭(理化学研究所)他日常言語コンピューティング
片寄 晴弘(関西学院大学, 科技団さきがけ研究21) 他事例に基づくデザイン支援と評価基盤の構築

•ニュー・チャレンジ

古川 康一 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科)他身体知の解明を目指して

サバイバル・オブ・チャレンジにおいて、前年度勝ち残った5件のチャレンジのうち、藤本 和則(FRP他)によるチャレンジが選考から外れ、その他4件のチャレンジャーが勝ち残りました。また、新たにニュー・チャレンジ1件が採択されました。

第18回人工知能学会全国大会「近未来チャレンジ」セッション

第18回人工知能学会全国大会は、2004年5月31日(月)〜4日(金)に金沢 石川厚生年金会館にて開催された。本研究チームは、6月4日(金)午後に、「近未来チャレンジ:日常言語コンピューティング」というセッションを開催し、8件の口頭発表、および、口頭発表終了後、座長による総括を行うセッションを開催しました。

それぞれの発表内容の日常言語コンピューティングの枠組みへの関連を図8に示します。

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【図8:各研究内容の日常言語コンピューティングの枠組みへの関係(2)】

図8は、図7と同様に、日常言語コンピューティングの基本的な3つの原理である、「言語化」、「個人化」、「人間化」に対して、当セッションにて発表がなされた研究内容がどのように位置づけられるのかについて示しています。 今回、前回と同様に、(池ヶ谷 et al.)、および(岩爪 et al.)は、昨年度の内容をさらに発展させたものを発表しました。(高橋 et al.)は、昨年度(伊藤 et al.)が言語体系の意味、語彙文法の資源の構築について研究発表したのに対して、それら意味、語彙文法資源を利用するために言語体系を取り巻く状況をどのように利用するかについての枠組みを提案しました。また、状況を利用するという趣旨において、(角田 et al.)は、状況に応じて意味を捉える検索手法を提案しました。また、(杉本 et al.)、および、(金子 et al.)では、言葉でプログラムを作成する手法を提案しており、これらの研究は、言語をある形式(この場合、プログラム言語)に代わる表現手段として利用しているといえます。また、(岩下 et al.)は、昨年に引き続き、ユーザにとってテーラーメイドの情報を提供できるような手法を提案し、実際にユーザが操作に困ったときに、ユーザの習熟度に合わせて、MS Wordのヘルプを言い換え技術などを利用し、修正して適切なインストラクションを提供するヘルプシステムを開発し、その報告を行いました。(R. Zepka et al.)は、Web上の情報から知識のマイニングなどを行い、多量の知識を収集し、常識などの知識をもった人格をコンピュータの上につくりだしていこうという試みについて提案がなされました。このことは、日常言語コンピューティングの3つの基本原理のひとつである「人間化」を実現する試みをもった研究であるといえます。

第18回人工知能学会全国大会「近未来チャレンジ」における結果は、以下のようでした。

•サバイバル・オブ・チャレンジ

チャレンジャーテーマ
矢入(江口)郁子(情報通信研究機構)他高齢者・障害者の自立的移動を支援する Robotic Communication Terminals
石田 亨(京都大学)、松原 仁(公立はこだて未来大学)他危機管理シミュレーションとその分析
岩爪 道昭(理化学研究所)他日常言語コンピューティング
片寄 晴弘(関西学院大学, 科技団さきがけ研究21) 他事例に基づくデザイン支援と評価基盤の構築
古川 康一 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科)他身体知の解明を目指して

•ニュー・チャレンジ

残念ながら、今年度は選択されませんでした。

サバイバル・オブ・チャレンジにおいて、昨年度、勝ち残った5件のチャレンジャーがそのまま勝ち残り、新たなニュー・チャレンジは採択されない結果に終わりました。今年度は、ニュー・チャレンジが1件のみと例年にない少ない応募数でした。

聴衆によるアンケートから「日常言語コンピューティング」感想として以下のような声が聞かれました。
1.今年のテーマである状況・文脈に関連した発表が多く集まり、昨年よりもさらに進んだ議論が行われたように思う。
2.今後きわめて重要性が増す研究分野である。是非継続して欲しい。
3.自然言語処理セッションとの相違が不明確で日常言語ならでは、という訴求点が見えにくい。その点を是非クリアにして欲しい。

第19回人工知能学会全国大会「近未来チャレンジ」セッション

第19回人工知能学会全国大会は、2005年6月15日(水)〜6月17日(金) 北九州国際会議場にて開催されました。本研究チームは、6月15日(水)午前に、「近未来チャレンジ:日常言語コンピューティング」というセッションを開催し、8件の口頭発表、および、口頭発表終了後、座長による総括を行うセッションを開催しました。

それぞれの発表内容の日常言語コンピューティングの枠組みへの関連を図9に示します。

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【図9:各研究内容の日常言語コンピューティングの枠組みへの関係(3)】

選考結果を表8、表9に示す(表8、表9の出典元は「近未来チャレンジ」HP)。

【表8:アンケート集計結果】
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【表9:各項目の平均値比較】
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いずれも日常言語コンピューティングは高い評価を得ていることがわかります。今年度のサバイバル達成により、日常言語コンピューティングは最終目標である5年間のサバイバルを達成し、近未来チャレンジを卒業しました。1999年から近未来チャレンジが始まり、日常言語コンピューティングのサバイバル達成まで、およそ32団体がチャレンジを試み、その内、日常言語コンピューティングを含む3団体のみ最終目標を達成しました。

第20回人工知能学会全国大会「近未来チャレンジ卒業記念パネルディスカッション」

第20回人工知能学会全国大会は、2006年6月7日(水)〜6月9日(金) タワーホール船堀にて開催されました。6月9日(金)午後に、「近未来チャレンジ『危機管理』『日常言語コンピューティング』卒業記念パネルディスカッション― 近未来から未来へ」が開催され、本研究チームからは小林と岩爪の2名がパネリストとして参加しました。このセッションの内容は、

  • “近未来チャレンジ卒業記念パネルディスカッション”, 人工知能学会誌 22 (2), 244-57 (2007).

として掲載されました。


添付ファイル: filekinmirai_19.jpg 169件 [詳細] filekinmirai_17.jpg 177件 [詳細] fileelc-triangle.gif 121件 [詳細] filekinmirai_18.jpg 182件 [詳細] filekinmirai_19_res2.jpg 171件 [詳細] fileelc-pentagon.gif 122件 [詳細] filekinmirai_19_res1.jpg 165件 [詳細]

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Last-modified: 2021-10-08 (金) 11:02:10